予想を超える大雨に冷静な判断ができず、適切な対処が遅れる場合も……
最近よく耳にする、局地的な大雨のニュース。特にゲリラ豪雨は頻発していて、線状降水帯が発生したと思ったら、あっという間に道路だけでなく、街中が浸水してしまったというケースも珍しくない。クルマに関しても、水が溢れた道路上で何台も止まってしまっているのをニュースでよく見かける。
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記憶に新しいのは千葉県を襲った豪雨で、水没して動かなくなったクルマはなんと3000台以上というから驚くばかりだ。千葉県といえばゴルフ場が多いエリアとして知られ、ゴルフに行く途中や帰り道に被害に遭う可能性もあるし、今や全国どこでも線状降水帯は発生するので、日本全国での問題とも言える。そもそもなぜ冠水路に進入してしまうのか。最近のゲリラ豪雨の降雨量は想定外の量なので、普通に走っていただけでアッという間に浸かってしまい、不動になったというパターンだけでなく、冠水に自ら突っ込んでしまい、抜けられずに止まってしまうこともある。その理由はいくつかある。まず車内にいると別世界感があって大丈夫だと勘違いしてしまうから。心理学的にも証明されていて、外部と遮断されているがゆえに行けるだろうと思ってしまうし、自分に限ってそんなことはない、という思い込みも加わる。さらに、家族から迎えに来てほしいと連絡があったから行かねばという使命感や、後続車がいて気分的に止まるに止まれず進んでしまったという焦りみたいなものもある。後続車については幹線道路で追い立てられた感じがして、脇道にそれたらハマってしまうことも。当然、クルマは薄い鉄板とガラスで作られているだけで、エンジンや電気系も水没に対しては剥き出し状態とあまり変わらず、水には弱い乗り物だと思ったほうがいい。ちなみに水かさが一気に増える一番の原因は未曾有のゲリラ豪雨だが、側溝などの排水設備の整備が追いついていないこともあって、いつどこで線状降水帯によるゲリラ豪雨や冠水の被害に遭うかわからない時代ということは、頭に入れておいたほうがいい。そもそも、クルマはどれくらいの水深なら問題なく走れるかというと、乗用車であればドアの下端、つまり自動車の床面が浸からない程度とされる。もちろん、車内に浸水すれば、当然、電気装置が故障するおそれがある。あと問題なのはマフラー。マフラーに水が入ると排気ガスを外に出せないのでエンジンは停止する。ニュースなどで水が深いところを走っている様子を見かけるが、これは車内にはすぐに浸水しないため、しばらく走れているだけである。また、そのときは問題なくとも、あとで不具合が出てくることもある。車内に浸水してきたら、慌てずにクルマを止め、エンジンを停止して避難するのが基本だ。さらに、昨今のクルマのデザインにも水没は関係する。ミニバンやハイト系の軽自動車は車内スペースを稼ぐために、エンジンをできるだけ前に出しつつ、グリル部分が垂直に立っているクルマがほとんど。エンジンは常に空気を吸い込んで動いていて、吸込口は万一を考えて上のほうに設置されている。ただ、冠水路だと水をかき分けるようになって、水深が床面以下であっても、速度を上げると上部にある吸込口に届いてしまい、エンジン内部に水が入り込んでしまう。雪かきをするラッセル車のように水を巻き上げて走っているのも見かけるが、しぶきはボンネットまで上がっていて危険なだけだ。もちろんエンジン内部に水が入ると最悪の場合、使い物にならなくなる。クルマが水没するだけなら命あっての物種なのだが、中に閉じ込められて亡くなることもあるのが冠水の問題だ。最近のクルマはドアロックや窓の開閉は電動なので、水に浸かればショートして作動不能。ロックが解除できてもすごい水圧で、ドアを開けるのは困難なことが多い。緊急脱出用に窓ガラスを割る専用の脱出用ハンマーがあるので、ぜひ車内に備えておきたい。裏技的に、シートの上部に付いているヘッドレストを使う方法もあるとされるが、JAFの実験では、窓ガラスを割れたのは脱出用ハンマーのみだった。やはり脱出用ハンマーを備えておくのが安心である。なお、フロントガラスは合わせガラスとなっており、脱出用ハンマーでも割ることはできない。また、一部車種ではサイドガラスも合わせガラスのものがあり、これも割れないので注意が必要だ。最近のクルマは気密性が高くなっているが、どこかしらに穴は空いているので、車内に水はドンドン進入して最終的には空間がなくなってしまうこともある。浸水を確認したら、ためらうことなく脱出するようにしたい。水没被害後の話もしよう。気になるのは水没車両の処理で、実際に話題に上ることも多い。水没してもエンジンをすぐに止めれば電装系の部品を交換や洗浄すれば復活する可能性はなくはないが、冷静にエンジンをオフにする人はほとんどいないだろう。オンにしているから、クルマのあちこちがショートして破損する。水没車を見るとワイパーやハザードが作動しっぱなしのことがけっこうあるが、ショートして誤作動しているからだ。水没したら基本的には廃車と考えたほうがいい。となると自動車保険が頼みの綱になるのだが、まずは車両保険に入っていないとダメで、泣き寝入りするしかない。ただ、ここには盲点がある。車両保険に入っていれば大丈夫とは必ずしも言えないのだ。車両保険が使えても年式が古いと、減価償却した分しか払われない。事故でよく揉めるポイントで、全損扱いでも保険は現在の価値で判断するので、10年落ちで30万円ほどというのもよくある。もちろん新車ならほぼ満額だが、古ければ次のクルマを買うのに程遠い金額なのが現実だ。また、最近流行りの残価設定ローンだと、廃車だと残りの金額を一括で支払う必要があるので、車両保険は必須で特に高額車は注意したい。自宅での水没だと支払われない車両保険もあるので、いずれにしても契約条件を今一度確認しておくといいだろう。ちなみに水没車も鉄くずとして数万円で売れるし、自分でできるなら外して中古パーツとして売って少しでも回収はできる。ただ、ここでも保険が関係してきて、全損での使用では所有権が保険会社になるので、保険金をもらいつつ、廃車体ももらうということはできない。あくまでも命最優先なので、冠水にあえて突っ込むなどの行為は避けたほうがいい。「行けるかな」「行けるだろう」ではなく、「行かない」「止まる」勇気。そして危険が迫ってきたらためらうことなく、脱出することが大切だ。(文・近藤暁史)近藤暁史学習院大学文学部国文学科卒。ファッション誌から一気に転身して、自動車専門誌の編集部へ。独立後は国内外の各媒体で編集・執筆、動画製作なども行う。新車、雑ネタを中心に、タイヤが付いているものならなんでも守備範囲。所有するのはクルマ3台、バイク4台で、計20輪生活を送る。自身のYouTubeチャンネル「こんどう自動車部」では、洗車・自動車のメンテナンスなどを中心に、クルマに関わる裏技を紹介している。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。