古江彩佳に施術をするリー・ヨンヒー(古江本人提供)
畑岡奈紗、古江彩佳、渋野日向子、原英莉花など、2026年は過去最多となる日本勢15人が出場する米国女子ツアー。その動向にも注目だが、試合以外や海外勢のこぼれ話まで伝えるのはなかなか難しい部分も…。そこでツアーを長年取材しているカメラマン・南しずか氏が気になるネタをピックアップ。これを見れば“米女子ツアー通”になれるかも!?
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◇世界を転戦する米国女子ツアーの舞台裏に、選手を支える大勢の人たちがいる。韓国出身のフィジカルトレーナー、リー・ヨンヒーもそのひとりだ。これまでにリディア・コ(ニュージーランド)、パク・インビ、ユ・ソヨン(ともに韓国)ら50選手以上を支え、30回以上の優勝に貢献してきた。現在は米国に「YON PERFORMANCE LLC」を設立。2人のアシスタントとともに、古江彩佳、ジーノ・ティティクル(タイ)、ナタリア・グセバら約15選手をサポートしている。リーのメソッドは、医療リハビリとアスレチック・トレーニングを組み合わせたもの。選手一人ひとりの目標や身体の状態に合わせ、最適なケアやトレーニングを提供する。「唯一の正解というトレーニングはありません。各選手が自分の身体と目標に合った最適なアプローチを見つけ、それを習得できるようにサポートすることが僕の役割です」。例えば、古江には試合前の練習日に週1回ほど、全身の疲労回復を目的としたケアを行う。「アヤカのスイングは、リズムが滑らかで余計な力みがありません。体の使い方のセンスが抜群で、ジュニア時代に質の良い基礎トレーニングを積んできたと推測します。だから、大きなケガもなく、多くの試合に出場できているのだと思います。むしろ試合間隔が空きすぎると、スイングの感覚やリズムが鈍ってしまう。一定に保てるようサポートしています」。米ツアーは飛行機での長距離移動が多く、時差や移動疲れが少しずつ身体に蓄積する。そうした負荷はショットの精度に影響を及ぼしかねない。毎週良いパフォーマンスを発揮し、シーズンを戦い抜くため、古江は2025年の途中からサポートを受けるようになった。「私の英語が完ぺきじゃなくても、(言いたいことを)理解してくれるし、ケアの技術面もすごいと思います」と信頼を寄せる。施術を受けることで、回復の早さを実感している。「自分でケアしきれないところをケアしてくれるし、いま(身体の)ここがどういう状態で、それに対して自分でどんなケアやストレッチをしたらいいのか、ちゃんと教えてくれるのがありがたいです」。単に疲れをとるだけではなく、日々のセルフケアにつながる点も大きい。ケアだけではない。リーはそれぞれの選手とコミュニケーションを取り、必要に応じたサポートをする。世界ランキング2位のティティクルが手首に激痛を感じた時は、すぐに治療に専念し、痛みなく1試合を乗り切れる状態へ導いた。ミランダ・ワン(中国)がドライバーの飛距離アップを目指した時は、カスタマイズした筋トレメニューを組んだ。数カ月後に10ヤードの飛距離アップに成功したワンは、米ツアー初優勝を遂げた。各選手に応じたサポートは、戸惑いから始まったという。19年、米国でイ・ミヒャン(韓国)の帯同をした際、ほかに韓国人トレーナーはいなかった。つまり、相談できる先輩はおらず、遠征の仕方や選手のケアなど、試行錯誤しながら進めるしかなかった。担当選手が増えるにつれて忙しさも増した。各選手の試合時間は異なるし、試合前のウォーミングアップ、試合後のケアやトレーニングなど、求められる業務は多い。「今までに多くの理学療法士やトレーナーがこの仕事に就きましたが、疲弊して1~2年で辞めてしまうケースを何度も見てきました」と実情を明かす。それでも、この仕事に惹かれている。「担当する選手が優勝トロフィーを手にして喜ぶ姿を目の当たりにすると、言葉では言い表せないほどの感動を覚えます。疲れなんて完全に吹き飛んでしまいますよ」。優勝の瞬間にも大事な仕事がある。優勝者にシャンパンや水をかけてお祝いしている間、グリーン脇で静かに待つ。そのお祝いがひと段落すると駆け寄り、身体が冷えないようタオルをかける。ただし、ウエアスポンサーのロゴを隠さないようにすることも忘れない。「優勝者は興奮してドーパミンが出ている状態なので、自分の体の状態に気づかないことがあります。優勝が決まるのは、だいたい午後3時から5時ごろですし、シャンパンシャワーで濡れていることもあるので」。そんな細部まで気を配るのが、“シゴデキ”な所以だ。トッププロだけではなく、ジュニアゴルファーやアマチュアゴルファーたちをサポートすることを将来的な目標に掲げる。「選手たちの成功を見届けることが私の喜びです」。ベテランの域に入ってきても、リーのモチベーションは高まるばかりだ。(取材・文/南しずか)