豪雨により崩落した斜面がコース内に押し寄せた(写真提供・千葉セントラルゴルフクラブ)
台風25号の豪雨で土砂災害が多発した千葉県のゴルフ場。木村拓哉氏の義援金贈呈で関心が高まる一方、現場は「保険が使えない」復旧費用の壁に直面している。被災コースのリアルと再建の課題を追った。
【写真】木々をなぎ倒してフェアウェイに土砂が流れる千葉のゴルフ場
■ 8月から続く豪雨が追い打ち9月21日、千葉県を襲った台風25号による豪雨は、秋のトップシーズンを迎えたゴルフ場に大きな爪痕を残した。被害の中心は、丘陵地にコースが広がる市原市やその周辺だ。フェアウェイへの土砂流入、斜面の崩落、カート道路の陥没、停電など被害は広範囲に及び、単なる「雨天クローズ」では済まない深刻な事態となった。背景にあるのは、夏からの度重なる豪雨だ。市原市南部の牛久観測所では、8月の降水量が平年の約2.7倍となる308.5ミリ、9月は平年の約3.8倍となる910.5ミリを記録。21日午後8時50分までの最大24時間降水量は観測史上最多となる392.5ミリに達した。わずか2か月で年間平年雨量の7割超が集中した計算になり、飽和状態となった地盤が崩落を引き起こした。豪雨の爪痕は交通インフラにも色濃く残る。現在もJR外房線の一部区間などで復旧作業が続き、運転見合わせやダイヤの乱れが解消されていないなど、県内の生活や経済活動に今なお大きな影を落としている。■ 営業再開を阻むコース被害業界紙『ゴルフ特信』によると、千葉県内を中心に約40コース中15コースほどが3日以上休業し、秋の繁忙期にもかかわらず休業損害が膨らむ実態が報じられた。市原市の大千葉カントリー倶楽部では、進入路の土砂崩れや3番・6番ホール等のカート道路陥落で9月中休業。10月から18ホールで再開したが、27ホールの全面再開目標は11月1日だ。同市の千葉セントラルゴルフクラブも土砂流入やカート道路崩落、練習場の被災で9月を休業。10月1日に18ホール、17日に27ホール再開に漕ぎ着けたが、練習場の閉鎖やコース修復は今も続く。かずさカントリークラブも10月10日に18ホールで再開したものの、被害甚大な「つばめコース(9ホール)」は休業中。市原ゴルフクラブでも停電等で再開が遅れた。広大な敷地そのものが商品であるゴルフ場は、ハウスが無事でもコース内道路が寸断されればプレーは成立しない。
■ 「火災保険」でどこまで直せるのか莫大な復旧費や休業損失の頼みの綱となるのが、水災もカバーする企業向け火災保険や企業財産保険だ。だが、加入していても「ゴルフ場全体」が補償されるわけではない。建物や設備は対象でも、芝生やグリーン、自然斜面、地盤などは対象外となる契約が多い。破損したカート道路も、契約条項に対象物件として明記されているかが分かれ目となる。実際、市原市内のあるゴルフ場の保険関連書類には、クラブハウス等とともにカート道路が対象物件として明記され、水災欄にも印が付いていた。ただし、支払限度額や免責金額があるため全額を賄えるとは限らず、確定には保険証券と約款の精査が欠かせない。さらに、営業休止によるプレー料金の減収は財物補償では補填されず、休業損害補償に加入していなければ、売上喪失はそのまま経営を圧迫する。■ 地域社会を支える産業としての復興へ市原市には全国最多の32クラブ、33のゴルフ場がある。2024年の来場者は約177万人。「ゴルフの街いちはら」の看板通り、2000人超の直接雇用を生み、飲食・宿泊・交通など地域経済を支える中核産業でもある。だが、市原市で、被災ゴルフ場に特化した直接的な復旧補助金は、現時点で公表資料から確認できなかった。一方、千葉県は9月28日に被災した中小企業者に対する制度融資を発表しており、要件を満たせば、運転資金や設備資金として最大8000万円を利用できる。返済が必要な融資ではあるものの、保険だけでは足りない復旧資金を確保する選択肢となる。県は国への緊急要望も重ね、政府は10月9日、8月の豪雨から台風25号までの一連の災害について、激甚災害の追加指定を行う見込みを公表した。ただし、激甚災害に指定されたからといって、民間ゴルフ場の崩れた斜面を国がそのまま修理してくれるわけではない。支援対象や要件は制度ごとに異なり、公共道路などの復旧が進むことによる間接的な効果も大きい。こうした甚大な被害に対し、支援の輪も広がり始めている。芸能界屈指のゴルフ愛好家としても知られる俳優の木村拓哉さんは、一連の千葉豪雨や台風被害を受けて県庁を訪れ、熊谷俊人知事に2000万円の義援金を贈呈した。木村さんは幼少期を過ごした千葉の被災状況に心を痛めるとともに、「報道されていないが、ゴルフ場なども被害を受けたと聞いている」と言及。住宅被害だけでなく、地域産業の現場にも深く寄り添う姿勢を示した。ゴルフ場は単なるレジャー施設にとどまらず、豊かな自然環境を保全しつつ地域経済を潤す重要な社会資本である。個々の自助努力に委ねるだけでなく、保険の見直しや行政との連携、災害に強いコースづくりが不可欠だ。秋の行楽シーズン、営業を再開したコースにゴルファーが足を運んでプレーすること自体が、被災地の力強い復興支援へとつながっていく。(取材・文/嶋崎平人)