バーディパットを沈めて力強いガッツポーズを繰り出す倉林紅(撮影:米山聡明)
<資生堂・JAL レディス 最終日◇5日◇戸塚カントリー倶楽部 東コース(神奈川県)◇6487ヤード・パー72>トータル12アンダーで並んだツアー史上最多の7人によるプレーオフ(PO)を制したルーキー・倉林紅(こう)。昨年のプロテスト合格者のなかで、1番乗りの初優勝。宮城県出身者としても初のツアー優勝者となった。初優勝の裏には、“朝の準備”が大きく影響していた。
【写真】かっこいい! 優勝副賞はこのレンジローバー
首位と3打差からスタートした最終日。出だし1番、2番連続ボギーで気持ちを入れ替えた。「優勝の意識が外れたというか、昨日よりいいプレーをしようと気持ちが変わりました」。初日から貫く、“前日よりもいいプレーをする”ことを心掛け、残り16ホールで7つのバーディを奪って、この日「65」をマークして首位をとらえた。初めてのプレーオフも落ち着いていた。「2~3人だったら緊張していたと思いますが、7人もいると何が起きてもおかしくない。やることは決まっていたので、感情に左右されずにプレーできた」と、大人数ということも自分を貫くための追い風にもなった。宮城県富谷市出身。名門・東北高校を卒業後、3度目の挑戦で昨年のプロテストに合格し、QT1位で今季の出場権を獲得した。開幕戦から10戦目までは予選落ち4回、棄権1回。予選を通っても上位に絡めない試合が続いた。潮目が変わったのは4戦前の「ヨネックスレディス」。優勝争いを演じて2位に入ると、そこからは予選落ち知らずで、優勝までたどり着いた。急成長の裏には2つの苦手克服があった。ひとつはショートパット。ヨネックスレディスから「1~3メートルぐらいの入る確率が上がった」と、成功体験も増えて自信につながった。今季は、足裏で傾斜を感じて曲がり幅とタッチを決めるエイムポイントを取り入れている。「ショートパットを決め打ちできるようになりました。以前は、傾斜の感じ方にズレがありましたが、最近は、スタート前にひたすら傾斜や足の感覚をつかむようにしました」。スタート前には建設現場などで使われる傾斜計を使い、1度、2度、3度と傾斜の感覚を体に染み込ませている。もうひとつはバンカー。高校時代から「半イップス」という悩みがある。「練習の時はホームランするミスが多く、試合になると『ホームランしてギャラリーさんに当てたらどうしよう』みたいな恐怖心があって、緩むことが多かったんです」と砂場に入ると常に不安がつきまとう。PO1ホール目。ティショットを左に曲げて、2打目はガードバンカーにつかまった。ピンまで34ヤード。まさに苦手とする状況だ。「キャディさんに『ここまできたら自信を持って振るしかない』と言ってもらって、割り切って振れたのがよかった」と80センチに寄せてパーでしのぎ、2ホール目に進めた。2日目までにバンカーは3度入れたが、いずれもパーセーブできていなかった。そこで、それを想定して、最終日の朝は入念にバンカーショットの練習をしていた。「納得のいく球が2球続くまで打つというルールで、5分くらいはやっていたと思います」と自信をつけてからコースに出る。普通のチップショットよりもバンカーにいる時間を増やしたぐらいだ。POでバンカーに入ったときには「ホームランしたらどうしよう」という思いもよぎったが、「朝練習した距離だから、あとは振り抜くだけ」と強い気持ちで言い聞かして、見事に結果につなげた。「最近になって朝のルーティンが決まりました。傾斜の感覚をつかむのと、バンカーを多めにして少しでも自信を持って打てるように」。自分が苦手とする部分を朝に準備し、自信をつけることの大切さを実感した。POのバンカーショットだけでなく、今大会のグリーンは傾斜の強さが際立った。ショートパット、特に横についた短い距離を外す選手も多かったが、倉林は決め打ちをしてショートパットを多く沈めたことを勝因に挙げた。ルーキーの初優勝一番乗りと宮城県勢初優勝は、今年の大きな目標だった。ルーキーながらトップ10入り4回で、メルセデスランキング最上位にいる藤本愛菜は、「雰囲気がいい。ルーキーで一番うまい」と初優勝のにおいを感じていたほど、倉林の状態はよかった。「“宮城県勢初優勝”は地元のみなさんもすごく期待していただいた。それを1番に果たすことができてすごくうれしい。ルーキーイヤーで1勝は目標だったので、残りのシーズンで2勝、3勝と挙げられるように。もっとたくさんの方に『倉林紅(こう)』という選手を知ってもらえるように頑張りたいです」1988年のツアー制施行後、宮城がツアー未勝利県だったのは“ツアーの七不思議”と言われていた。不名誉な記録を打破した、QT1位通過の実力はダテじゃない。(文・小高拓)